ジェラルド・M・ローブ『投資を生き抜くための戦い』13 正確なタイミングの重要性

13 正確なタイミングの重要性

 証券を買い付けたとたん、買い手はもはや“決断”を避けることができない。保有するか売るかを決めなくてはならなくなる。こうなると世の常として、正しい結論が下せる割合はどうしても低くなる。そのため賢い投資家は、取引を始めるときよりも終えるときに過ちを犯しやすいと考えるのだ。
 現金しか持っていないときは、条件がすべて整わないかぎり何もしなくてよい。適当な機会が訪れて常識的に買い付けを行うか、長所と短所がきっ抗して何もしないままでいるかの、どちらかなのだ。もし後者を選択した場合、起こり得る最悪の事態は、慎重になりすぎたために機会を逸する程度で、それは災難というほどのものではない。新たな機会は、やがて必ず訪れる。投機と投資に対する心構えを本書の方針に沿って調整していれば、結果的な利益も心の平穏も失うことはない。

 買うことよりも利確が難しいというのはよく言われること。そもそも選択肢が少なく、失うものがただの機会ではない。

 売りのタイミングが買いどきよりも難しいもうひとつの理由は、本当のバーゲン株だけを求める技量が育つにつれて、自信を失いやすくなりがちだからである。過剰投資と自信過剰が蔓延する時期は、本来不景気に突入したあとに起こりやすく、また実際よく起きる。全般的に上向きの景気は、通常非常に悪い状態のあとに続く。ひとたび活発な時期になると、株式は過剰に割高で取引され、その株式を早い時期に底値近くで買った投資家の最も楽観的な期待さえ上回るほど値上がりする。こうなると通常の評価が復活するか、過剰評価の兆候が現れ始めるや否や、自分のポジションが心もとなくなってくる。

 「上がったときは、どこまでいくかわからないから、利益は引っ張れ」というようなことはよく言われますが、成長するにつれ割高を(ある意味正しく)恐れるようになるから、という視点はなかったかも。

 賢い手仕舞いの方法を説明するのに、単純に買いの好機を生む要素の逆だとは説明できない。いつ空売りするかという話なら、そのケースがほぼ当てはまる。しかしここではポジションを建てることではなく、すでに持っているものを処分することが重要なのだ。多くの投資家は、はっきりした空売りにもならないまま、中途半端な買い持ちになってしまっている。

 私もショートを特別な意識なしに実行できるようになろうとしているところですが、利確するのとショートを始めるのは全然違うというのはわかります。

 状況によっては、売却を考えることも必要になる。証券を購入したときに見込まれていた有利な展開が、最初の期待ほどではないかもしれない。株主は売ると損するかもしれないが、この場合に関しては機械的なルールに従うべきである。
 もちろん、どんな方式やシステムに頼るよりも、良識や道理に従い正確な情報をつかむことがすべての投資の成功の基礎をなす。しかし、株価の下落で間違いだと判明した買い持ちから脱するには堅実な方針が必要だ。これは証券を扱う一種の自動的な手続きであり、判断を必要としない唯一のものである。
 損失は常に「処分」しなくてはならない。資金を圧迫し始めるよりもずっと前に切るのだ。この方法で株式を処分したあとは、取引のことは忘れてしまうほうがよい。この経験は今後の検討課題から完全に除外して、すぐにでも後日でも、買いが再び有利になった場合、感情に邪魔されずにより高い水準でもポジションを復活できるようにするためだ。

 いわゆる損切りについても色々議論はありますが、少なくとも短期の投機については、この記述にもあるような機械的損切りに賛成です。

 もちろん条件次第では機械的にしなくてもよい・しない方がいいこともあるでしょうが、守破離の守として、一度は機械的にできるようになってから考えた方がいいと思います。

 「損失を減らすことは常に正しい」。これは、自信を持って教えられるマーケットの唯一の原則である。算数の問題であれば、どの小学生でも方程式を学ぶことができる。しかしこの原則を実際に応用するとなれば、人間の弱さを完全に超越しなくてはならず、それはめったに実現できることではない。
 人は儲けを好み、損失を嫌う。また、いったん売却したものを、より高い値で買い戻すことにも抵抗がある。人間の好き嫌いが、どんな投資プログラムも頓挫させてしまうのだ。失敗を避けたいのであれば、論理、理性、情報、そして経験のみに耳を傾けることである。

 AIが短期投資に強いのも、速さや疲れないことに加え、そもそも心理的な弱点を持たないことも原因なのでしょう。人間が行動経済学的弱点を克服するのはなかなか困難です。訓練で克服したり、うまく誤魔化して折り合いをつける方法を見つけたりすることが必要です。

 もし半年から一年で投資額を二倍にすることができれば、投資家は(次の好機が訪れるまで)長期間安心して現金を寝かせておくことができる。連続して全額投資しているとすれば、最終結果を世の中の平均的な低さ――しばしば純損失になるまで減らしてしまうこともない。
 投資に回さない資金をいつも手元に置き、思いがけない好機に備えることが得策である。そうでなければ、好機に出合ったときに資金が足りず、すでに保有している証券の売却を余儀なくされることになる。

 この記述を意識してやったわけではないですが、今思えば、2014年のミクシィで倍にしたあと、心理的ブレーキを引いていたおかげで、2015年8月のチャイナショックであまりダメージを受けずに済んだのかも。

 株式が、買える範囲内にあると確信できれば、初めに小さな買い付けをする。もし株価が下がれば、早めに損切りする。もし値上がりし、最初の買いを促した理由が引き続き有利な場合は、買い手がまだ十分に安いと思う値段でなら、さらに買い足してもよい。しかし株価が正常か、過大評価と目されるレベルまで達したときは、持ち株は相場が上がるにつれて徐々に処分していくベきである。

 簡潔にして明快ですね。

 損切りと買い乗せについては、こちらの話も参照。

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